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πに迫る

放送大学特別講義「πに迫る」(1999年)を視聴した。これはVHSビデオテープを随分前に購入していたものだが、今回初めて観た。講師は、円周率の計算で有名な東京大学の金田 康正氏である。ビデオは、金田氏の円周率計算の記録への挑戦と計算機の発展史といった内容で、円周率についての数学的な解説は限られたものだった。この10年余りの計算機の進展は非常に大きく、映像に現れる端末や記憶容量に関する話からは時代の流れを感じた。1999年の段階での金田氏のグループがスーパーコンピュータを用いて計算した円周率の近似値の世界記録は687億桁である。円周率を計算する意義をいくつか挙げる中で、計算機のテスト的な側面とともに、2番ではなくナンバーワンを目指す競争への情熱を挙げられていた。内容的には、昔読んだ金田氏の著書『π(パイ)のはなし』(東京書籍 1991)と同様、数学的な記述に期待して見ると物足りないが、円周率計算の記録保持者によるものという点で見るべき部分はあるという印象を受けた。

現在の状況はどうなっているかと思いウエブで調べると、今年の10月に長野県の近藤茂氏が自宅のパソコンで円周率を10兆桁計算したというニュースに行き当たった(計算プログラムはアレクサンダー・J・イー氏による)。そういえばそんなニュースを目にしたことを覚えているが、そのときはあまり気に留めなかった。金田氏のウエブページを見ると、近年は円周率計算から遠ざかっているように見えた。放送大学のビデオに登場する金田研究室の助手、高橋大介氏のことを調べると、現在は筑波大学に所属、ウエブページには、2010年にスーパーコンピュータを用いて円周率を2兆5769億8037万桁桁計算したという記述があった。

2番ではなく1番を目指すという金田氏の話を聞いて、事業仕分けの際の蓮舫議員の言葉「一番じゃなきゃダメですか?」が思い浮かんだ。近藤氏の計算には1年を要したとのことだが、計算プログラムや安定して高速に動作するパソコン、とりわけ大容量のメモリーと記録メディア(HDD)が使えるようになったことで、このような計算が可能になったのであろう。円周率の計算競争は計算機の専門家がスーパーコンピュータの空き時間を使ってやるものから、アマチュアが情熱を注ぐ対象に移行したのであろうか。(スーパーコンピュータとパソコンの対決と捉えるのはナンセンスであろうが、)スーパーコンピュータによる円周率計算で知られた金田氏や高橋氏の記録がパソコンにより塗り替えられ、(そのことと因果関係はないにせよ、)金田氏は次世代スーパーコンピュータ開発予算の削減に賛同したという話は、この10年余りの年月の一断面として見ると興味深い。以上が、π の数値計算にはそれほど関心のない数学者である私の幼稚な感想である。

岡山理科大学理学部応用数学科に所属していたとき、私は何度か卒業研究のテーマに円周率を取り上げた。円周率の計算法は、微分積分をはじめとする大学で教える数学の外伝として学生の関心を引く対象だと思うので、また何らかの形で学生に伝える機会を持ちたい。
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示野信一

Author:示野信一
関西学院大学理工学部数理科学科
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