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四元数による空間の回転

秋学期の定期試験が終わってだいぶ経つが、学部4年生と大学院生向けの授業で拙著『演習形式で学ぶリー群・リー環』を教科書にしてリー群とリー環について講義した。

授業の中でコンピューターグラフィックスなどの応用上も重要な四元数を用いて空間の回転を表す話を扱い、ベクトル $(1/\sqrt{3},1/\sqrt{3},1/\sqrt{3})$ を軸とする角 $\frac{\pi}{2}$ の回転により点 $(1,2,1)$ をうつした点の座標を求める問題を定期試験で出題した。回転を表す四元数は $$g=\cos\frac{\pi}{4}+\frac{1}{\sqrt{3}}(i+j+k)\sin\frac{\pi}{4}=\frac{1}{\sqrt{2}}+\frac{1}{\sqrt{6}}(i+j+k)$$ で、回転した点は $$g(i+2j+k)\bar{g}=\frac{4-\sqrt{3}}{3}i+\frac43j+\frac{4+\sqrt{3}}{3}k$$
したがって求める点の座標は $((4-\sqrt{3})/3,4/3,(4+\sqrt{3})/3)$ である。四元数の積の計算は注意深くやればできるものだが結構面倒なので試験の出来はあまりよくなかった。

Maple 標準のパッケージでは四元数の計算がサポートされていないが、Michael Carter 氏作の Quaternions パッケージをインストールして使えば四元数の計算をMapleで行うことができる。手計算をさせる意義が乏しい問題だったかも知れない。

quaternion.png



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擬球

擬球

擬球の模型(東京大学大学院数理科学研究科)。擬球は負の定曲率曲面。正の定曲率曲面は球(面)である。

平面の線形変換

birdcf2m.jpg

2013年度の春学期ももう半ばを過ぎた。新学期の初めにブログを更新しようと思いつつ怠ってしまっていた。

私は、所属する関西学院大学理工学部数理科学科において、幾何学(曲線・曲面・多様体・行列群)や数式処理の授業を担当している。春学期の4年生のゼミでは、空間幾何(2次曲線、2次曲面)と図形ソフトウエア(Maple, Geogebra)をやっている。教える内容との関連で学生たちの様子を見ていると、線形代数の幾何学的な理解に意識が向いてくる。線形代数はベクトルや行列について学ぶ大学1年生の基礎科目だが、学生たちは、計算はできるようになるものの、幾何学的な意味や理論面はおろそかになっているように見える。私の担当授業では、曲線や曲面を調べるためにベクトルや行列を使う、コンピューターを使って線形代数の計算をする、図示をするなど、線形代数を使う、線形代数を幾何学的に理解することを意識している。

折しも、数学セミナー2013年6月号の特集は、「ベクトル・行列が見せるもの」である。私は、4月号の特集「新入生のための数学書ガイド」に記事を書かせてもらったが、そこでも『なっとくする行列とベクトル』(川久保勝夫 著)など線形代数の幾何学的な理解に関連した書籍を挙げた。

上の図は、コンピューターを使って平面の線形変換を図示する方法を色々試みる中で、Maple の ImageTools パッケージ(と Adobe Photoshop CS)を使って作ったものである。1羽の鳥、そしてそれをある線形変換(原点中心の回転と相似拡大の合成)で写したもの、それをさらにどんどん変換していったものを同時に図示した。(ピンボケとブレと画像処理のため絵のように見えるが、元画像は私が撮った写真である。鷹?) 事例を調べたり、試作しているところだが、いずれ大学の授業や高校生向けの授業などの機会に使っていきたい。

曲面の交線

intersection_m.jpg

関西学院大学理工学部数理科学科3年生対象の担当科目『幾何学II』の演習問題52に現れる2つの曲面の交線がなめらかにならない場合の1つを図示してみた。単位球面(赤)と x - y2 = -1 (青)の交線は,(-1,0,0) で交わる8の字型の曲線になっている。

これが『幾何学II』の前半部分の最後の演習問題で,小問まで入れると70問ほどあり,この範囲で中間試験を行う(計算問題中心ではあるが問題数が多すぎるかも知れない)。受講者のレポートを元にほぼすべての問題の解答を LUNA(教授者-学習者支援システム)にアップした。前半部分のテーマは曲線,曲面を微分を用いて調べる話題で,Rn 内の多様体の定義まで一応到達した。後半部分のテーマはベクトル解析で,線積分をやっているところである。

著書『複素数とはなにか』(講談社ブルーバックス)が発売して1ヶ月が過ぎた。ブルーバックスの数学書の好調に後押しされてか,売れ行きは割とよかったが,1ヶ月経つとそれも鈍ってきたようだ。この1ヶ月,ランキングを気にしたり,書店に行ったりと落ち着かないよい経験をさせてもらった。自分が本を書いた影響で本を読む量が増えたのも副次効果である。

今のところ,読者の声が聞こえてくることはなく,読まれているものかどうかわからない。ブルーバックスの普及度により売れていても,難しいと投げ出されているのではないかと恐れる。一般の読者層にとって,軽く読み流せる内容ではないと思うが,しっかり読んでくれる読者に届くことを願っている。

Dimensions

COVER_S.jpg関西学院大学理工学部数理科学科3年生向けの授業「幾何学II」で数学動画 Dimensions (次元) の第1章を上映した。13分ほどの動画で、球面の座標(緯度、経度)、立体射影(ステレオグラフィック射影)について地球の美しいCGで説明されている。授業では、パラメータ表示された曲線、曲面、それらの長さ、面積についてやっているところなので、補助教材として用いたのである。

授業で動画を上映するのは初めてのことで、火曜の授業では持参した音声ケーブルが合わず、金曜の授業でも動画の再生を始めてから教室の電灯を消して遮光カーテンをひかないとスクリーンが見にくいことに気づいた。これだけ美しくおもしろい動画に無反応なはずはなく、学生からは、よかった、続きが見たいなど好意的な感想があった。

一方で、ビデオ視聴の趣旨が十分伝わっていないこともあって、居眠り、スマートフォン操作など、動画を観ていない者も若干目に付いた。遮光カーテンをひくなどの切り替えが必要なこともあり、授業内にこのような機会をとるときは今後よく考えないといけないことが経験してみてわかった。

ちなみに私の担当授業では居眠りしている学生に気づいたら起こすようにしている。これについては、私語と違い迷惑をかけないのだから放っておけばよいという指摘を受講者から受けている。また、眠くなるような授業をする教員にも責任があるという指摘もある。居眠りは避けがたい生理現象であろうから放置したいところではあるが、授業時間内の取り組みも成績評価の対象としている以上、そういう訳にはいかないのである。

Dimensions は、ウエブ上でも公開されているので、DVD を入手しなくても視聴できる。



プロフィール

示野信一

Author:示野信一
関西学院大学理工学部数理科学科
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